こんにちは、神戸市兵庫区 北村歯科医院 院長 北村聡一です。
糖尿病と歯科治療の関係
〜歯科受診時に知っておきたい大切なポイント〜
みなさんは、糖尿病と歯科治療が深い関係にあることをご存じでしょうか?
糖尿病は全身にさまざまな影響を及ぼす病気ですが、実はお口の健康とも密接につながっています。今回は「糖尿病と歯科治療の関係」について、特に歯科受診時に注意すべき点をわかりやすくご説明します。
糖尿病とはどんな病気?
糖尿病は、膵臓から出る「インスリン」というホルモンの働きが不十分になることで起こる病気です。インスリンが少なかったり効きにくくなったりすると、血糖値が慢性的に高くなり、全身の血管や神経に障害を引き起こします。
診断には血糖値やHbA1c(過去1〜2か月の平均血糖値を反映する数値)が使われ、空腹時血糖126mg/dl以上、HbA1c6.5%以上などが基準となります。
糖尿病の合併症
糖尿病は「合併症」が怖い病気といわれます。
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急性合併症:低血糖、糖尿病ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群など、急激に血糖が変動することで意識障害を起こすことがあります。
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慢性合併症:網膜症、腎症、神経障害(細小血管症)や、心筋梗塞・脳梗塞などの大血管症が代表的です。
そして忘れてはいけないのが「口の中」への影響です。糖尿病は歯周病と強く関係しており、歯の健康を守る上でも注意が必要です。
歯科治療で注意すべき3つのポイント
糖尿病のある方が歯科治療を受ける際には、大きく次の3点に注意が必要です。
1. 感染しやすいこと
抜歯などの観血処置では、お口の中の常在菌が血液に入り込み「菌血症」を起こすことがあります。健康な人では大きな問題にならなくても、糖尿病の方では重症化しやすいのです。
そのため、HbA1cが7.0%未満にコントロールされていることが望ましいとされます。良好なコントロール下でも、抜歯時には抗生物質を投与して感染予防を行うことがあります。
2. 傷が治りにくいこと
糖尿病では血流障害や神経障害のため、傷の治りが遅くなります。抜歯や歯周病治療の回復が長引くこともあるため、治療計画は慎重に立てる必要があります。
3. 血糖値が変動しやすいこと
歯科治療のストレスや麻酔によって血糖値が上昇することがあります。反対に、食事を抜いた状態で治療を受けると低血糖になるリスクもあります。
そのため、食事や薬のタイミングを考え、血糖が安定した時間帯に受診することが大切です。
予防が一番大切
糖尿病の方にとって、歯科治療はリスクが伴います。だからこそ「病気を治す」より「病気を予防する」ことが重要です。
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虫歯予防:定期的なクリーニングやフッ素塗布
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歯周病予防:歯石の除去、正しい歯磨きの習慣づけ
糖尿病と歯周病には双方向の関係があります。
歯周病を治すと血糖コントロールが改善し、逆に血糖コントロールが良くなると歯周病も安定しやすくなるのです。
歯科受診時の持ち物とお願い
糖尿病で治療中の方は、必ず以下をご準備ください。
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お薬手帳:どんな薬を、いつ服用しているかを歯科医師が把握するために必要です。
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最新の血糖値やHbA1c:治療の安全性を判断する重要な情報です。
血糖値が高く重度の糖尿病の場合、抜歯などは全身管理のできる総合病院での治療が必要となる場合もあります。その際は歯科医院から紹介状を作成し、安全に治療を進めます。
まとめ
糖尿病の方が歯科治療を受ける際の注意点は次の3つです。
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感染に注意(抜歯などでは抗生物質を使用)
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傷が治りにくいため治療後は慎重な経過観察が必要
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血糖値の変動に気をつけ、安定した時間帯に受診する
糖尿病と歯周病は互いに悪影響を及ぼす関係にありますが、定期的な歯科受診と予防ケアによってコントロールが可能です。
「血糖値が高いから歯医者は無理」と思わずに、必ず主治医と歯科医師の両方に相談してください。私たち歯科医師は、安全で安心できる治療を一緒に考えていきます。