こんにちは。兵庫県神戸市の歯医者、北村歯科医院 院長の北村 聡一です。インプラント治療を希望されてご相談に来られた患者様が、過去に他の歯科医院で、「あなたは顎の骨が少ないので、インプラントはできません」と診断され、肩を落としていらっしゃる場面に、私たちは何度も遭遇してきました。
そして、その解決策として「骨を増やす手術(骨造成)が必要かもしれません」と提案されたものの、「インプラント手術だけでも怖いのに、さらに手術が必要なの?」「費用や体への負担は、一体どのくらい大きくなるの?」と、更なる不安を抱えてしまう方も少なくありません。
もし、あなたが今、同じような状況にあるのなら、どうか治療を諦めてしまう前に、このブログを読んでください。現代の歯科医療における「骨造成(骨再生誘導法)」は、かつては不可能だった多くのケースを可能にする、確立された安全な治療法です。今回は、なぜ骨が少なくなるのか、そしてその骨を増やすための代表的な手術方法、それぞれの負担について、詳しく解説していきます。
目次
- なぜ顎の骨は少なくなるの?主な3つの原因
- 「骨造成」とは?インプラント治療を可能にする骨の再生医療
- ケース別・代表的な骨造成の種類①【上の奥歯編】
- ケース別・代表的な骨造成の種類②【骨の高さ・厚みが足りない編】
- 気になる費用や体への負担について
- まとめ:骨造成は、安全なインプラント治療のための「土台作り」
1. なぜ顎の骨は少なくなるの?主な3つの原因
インプラントを安全に埋め込むためには、それを支えるための十分な量(高さ・厚み)と、質の良い顎の骨が不可欠です。家を建てる時に、しっかりとした基礎(土台)が必要なのと同じです。しかし、様々な理由で、この大切な骨が不足してしまうことがあります。
- 原因①:歯周病の進行 歯を失う最大の原因である歯周病は、歯を支えている顎の骨そのものを溶かしてしまう病気です。重度の歯周病で歯を失った場合、土台となる骨も、すでに大きく失われていることがほとんどです。骨が溶かされた結果、インプラントを支えるのに必要な骨量を確保できなくなってしまいます。
- 原因②:歯を失ってからの時間経過 歯がなくなると、その部分の骨には、噛むことによる刺激が伝わらなくなります。私たちの骨は、適度な負荷がかかることでその健康を維持していますが、刺激がなくなると、骨は「もう必要ない」と判断し、使われなくなった筋肉が衰えるように、時間と共に徐々に痩せて(吸収して)いってしまいます。入れ歯を使っている場合も、歯の根からの直接的な刺激はないため、骨の吸収は進行してしまいます。
- 原因③:解剖学的な理由 特に「上の奥歯」の上には、「上顎洞(じょうがくどう)」という大きな空洞(副鼻腔の一種)が存在します。この上顎洞までの骨の距離が、元々短い方は少なくありません。また、上の前歯の骨も、元々が非常に薄いため、抜歯によってインプラントに必要な厚みが不足しやすい部位です。
これらの理由で、いざインプラントをしようと思った時には、土台となる骨が足りない、という状況が起こり得るのです。
2. 「骨造成」とは?インプラント治療を可能にする骨の再生医療
「骨が足りないなら、作れば良い」—この考えを実現するのが、骨造成(骨再生誘導法)です。 これは、インプラントを埋め込む部分の骨が不足している場合に、ご自身の骨(自家骨)や、骨の代わりになる人工の補填材(骨補填材)を用いて、骨の再生を促し、インプラントに必要な骨量を確保するための、外科的な処置の総称です。
「手術」と聞くと、身構えてしまうかもしれませんが、多くの場合、インプラントを埋め込む手術と同時に、あるいはその前段階として行われる、確立された治療法です。この技術の進歩により、かつては「インプラント不適応」と診断されていた、多くの患者様が、安全に治療を受けられるようになっています。骨造成は、インプラントという高価な家を建てるための、最も重要な「基礎工事」とご理解いただければと思います。この土台作りをしっかり行うことが、インプラントの長期的な安定に直結するのです。
3. ケース別・代表的な骨造成の種類①【上の奥歯編】
特に骨が不足しやすい「上の奥歯」に対して行われる、代表的な骨造成をご紹介します。上顎洞という空洞と、インプラントを埋める骨との距離がどのくらいあるかによって、術式が異なります。
- サイナスリフト 上顎洞までの骨の高さが、5mm以下と、かなり少ない重度のケースで行われる方法です。歯茎の側面から窓を開けるように穴を開け、そこから上顎洞の底にある粘膜(シュナイダー膜)を風船のように慎重に持ち上げます。そして、その下にできたスペースに、たっぷりと骨補填材を填入し、骨が再生するのを待ちます。骨が完全にできるまで、約3~6ヶ月の治癒期間を待ってから、インプラントを埋め込むのが一般的です。身体的な負担は比較的大きいですが、広範囲に骨を増やすことができる、非常に有効な方法です。
- ソケットリフト 上顎洞までの骨の高さがある程度(5mm以上)残っている、比較的軽度なケースで行われます。インプラントを埋め込むために形成した穴から、専用の器具を使って上顎洞の粘膜を優しくコンコンと押し上げ、できたわずかなスペースに骨補填材を填入します。この方法の最大のメリットは、インプラントの埋め込みと同時に行えるため、患者様の身体的な負担や、治療期間を大幅に短縮できる点です。手術の回数が1回で済むため、精神的なメリットも大きいと言えるでしょう。
4. ケース別・代表的な骨造成の種類②【骨の高さ・厚みが足りない編】
歯周病などで骨の「厚み(幅)」がナイフのように薄くなってしまったり、「高さ」が足りなくなったりした場合に行われるのが、GBR法です。
- GBR法(骨再生誘導法) 骨の厚みや高さが足りない場合に、最も一般的に行われる方法です。骨が不足している部分に、ご自身の骨を削って採取したものや、骨補填材を盛り付け、その上を「メンブレン」という特殊な人工膜で覆います。このメンブレンは、骨が再生するためのスペースを確保し、治りの早い歯茎などの柔らかい組織が入り込んでくるのを防ぐ“バリア”の役割を果たします。これにより、膜の下で、骨の細胞だけがゆっくりと増殖し、目的の量の骨が再生されるのです。不足している骨の量が少なければ、インプラントの埋め込みと同時に行うことが可能です。骨の不足量が大きい場合は、GBR法を先に行い、骨ができるのを4~6ヶ月ほど待ってからインプラント手術を行うこともあります。
5. 気になる費用や体への負担について
- 体への負担(痛みや腫れ)について 骨造成は、外科処置ですので、術後にある程度の痛みや腫れを伴います。特に、サイナスリフトや、広範囲のGBRなど、処置範囲が大きくなるほど、その程度は強くなる傾向にあります。しかし、処方される痛み止めや抗生物質をきちんと服用し、術後の注意事項(安静にする、激しい運動を避けるなど)を守っていただくことで、痛みや腫れは、通常1~2週間で落ち着きます。多くの場合、腫れのピークは術後2~3日で、その後は徐々に引いていきます。身体的な負担はゼロではありませんが、多くの患者様が、「思ったよりも大変ではなかった」とおっしゃいます。私たちは、処置中の痛みはもちろん、術後の負担も最小限に抑えるための、最大限の配慮をいたしますので、ご安心ください。
- 費用について 骨造成は、公的医療保険が適用されない自由診療です。費用は、行う術式や、使用する骨補填材・メンブレンの量によって大きく異なりますが、一般的な目安として、5万円~30万円程度が、通常のインプラント治療費に加えて必要となることが多いです。これは、決して安い金額ではありませんが、安全で長期的に安定するインプラント治療を行うための、必要不可欠な投資とお考えください。この「基礎工事」を妥協してしまうと、将来、インプラントがダメになってしまい、結果的により多くの費用と時間がかかってしまうリスクがあります。
6. まとめ:骨造成は、安全なインプラント治療のための「土台作り」
「骨が少ない」という現実は、あなたにとってショックな宣告だったかもしれません。しかし、それは決して、インプラント治療への「終着駅」ではありません。
- 歯周病や抜歯後の時間経過で、顎の骨が少なくなるのは、誰にでも起こりうること。
- 「骨造成」は、その不足した骨を再生させ、インプラントを可能にする確立された治療法。
- サイナスリフトやGBR法など、お口の状態に応じた様々な術式がある。
- 追加の費用や、身体的な負担はかかるが、それは安全で長持ちするインプラント治療を行うための、最も重要な「基礎工事」である。
無理やり短いインプラントを入れたり、不十分な骨に埋め込んだりすることは、将来的な脱落や失敗に繋がる、非常に危険な行為です。骨造成は、遠回りに見えるかもしれませんが、あなたのインプラントが、10年後、20年後も、しっかりと機能し続けるための、最も確実で、最も安全な近道なのです。
「自分は適応になるのか」「どの方法が最適なのか」…どんな些細な不安でも、まずは私たち専門家にご相談ください。あなたの希望を叶えるための最善の道を、一緒に探していきましょう。