こんにちは。兵庫県神戸市の歯医者、北村歯科医院 院長の北村 聡一です。インプラント治療は、今や多くの方が選択される、失った歯を補うためのスタンダードな治療法となりました。治療を検討される患者様からは、手術の安全性や費用に関するご質問はもちろんのこと、治療後の長期的な影響について、非常に鋭いご質問をいただくことがあります。その中でも、特に多いのが今回のテーマです。
「インプラントを入れたら、将来、脳の検査などでMRIが受けられなくなると聞いたのですが、本当ですか?」
ご自身の将来の健康管理まで見据えた、非常に大切なご質問ですね。万が一、将来、脳や頭部の病気になった際に、必要な検査が受けられないとしたら…とご不安に思われるのは当然のことです。
ですが、まず結論から申し上げます。インプラントを入れたからといって、将来MRI検査が受けられなくなる、ということは、まずありませんのでご安心ください。 今回は、なぜそう断言できるのか、その科学的な理由と、唯一の注意点、そしてMRI検査を受ける際にあなたがすべき、たった一つの大切なことについて、詳しく解説していきます。
目次
- 【結論】ご安心ください。インプラントがあってもMRI検査は原則可能です
- なぜ安全なの?インプラントの材質「チタン」と磁石の科学
- 唯一の注意点:「アーチファクト」による画像の乱れとは
- こんな場合は要注意!MRIで気をつけるべき、他の歯科金属
- MRI検査を受ける際に、あなたがすべき、たった一つのこと
- まとめ:正しい知識で、未来の不安を解消しましょう
1. 【結論】ご安心ください。インプラントがあってもMRI検査は原則可能です
「インプラントをしているとMRIは危険」という話は、一昔前によく聞かれた、今となっては“都市伝説”に近い誤解です。現代のインプラント治療で用いられる材料と、MRIの特性を正しく理解すれば、その安全性がお分かりいただけるはずです。
世界中の医療機関で、インプラント治療を受けた方が、問題なくMRI検査を受けています。まずは、「インプラント=MRIは受けられない」という漠然とした不安は、手放していただいて大丈夫です。
2. なぜ安全なの?インプラントの材質「チタン」と磁石の科学
MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)検査は、非常に強力な磁石と電波を使って、体内の断面を画像化する検査です。そのため、強い磁力に引きつけられる**「強磁性体」**の金属(鉄、ニッケル、コバルトなど)が体内にあると、金属が動いたり、熱を帯びたりして、大変危険です。
では、歯科インプラントの材質は何でしょうか? 現在、世界中で使用されているインプラントの主成分は「チタン(Titanium)」です。このチタンは、金属ではありますが、鉄などとは性質が異なり、磁石に引きつけられない「非磁性体(または常磁性体)」に分類されます。
つまり、チタンは強力な磁石の中に入れても、くっついたり、動いたりすることがないのです。 この性質のおかげで、インプラント体そのものが、MRIの磁力によって動いてしまう危険性や、高熱を帯びて周囲の組織に火傷をさせてしまうといった危険性は、まずない、と断言できます。これが、インプラントがMRIに対して安全である、最も大きな科学的根拠です。
3. 唯一の注意点:「アーチファクト」による画像の乱れとは
「危険性はない」と申し上げましたが、一つだけ、知っておくべき注意点があります。それが「アーチファクト(金属アーチファクト)」と呼ばれる現象です。
これは、インプラントのような金属が体内にあると、その周囲のMRI画像が、歪んだり、黒く抜け落ちたようになったりする現象を指します。金属がMRIの磁場を乱してしまうために起こる、画像の“乱れ”や“ノイズ”のようなものです。
このアーチファクトが、どのような影響を及ぼす可能性があるかというと、 「もし、インプラントのすぐ近く(例えば、顎の骨や舌、脳の一部など)を精密に検査したい場合に、その見たい部分が、画像の乱れによって、見えにくくなってしまう可能性がある」ということです。
しかし、これも過度に心配する必要はありません。MRIを撮影する放射線技師や、画像を読影する放射線科医は、金属アーチファクトに関するプロフェッショナルです。画像の乱れを最小限に抑えるための撮影技術を駆使したり、画像の乱れを考慮した上で、診断を下したりすることができます。インプラントがあるからといって、診断そのものが不可能になる、というケースは非常に稀です。
4. こんな場合は要注意!MRIで気をつけるべき、他の歯科金属
インプラントは安全ですが、お口の中にある、他の種類の金属については、注意が必要な場合があります。
- 磁性アタッチメント義歯 入れ歯を安定させるために、強力な小型磁石(磁性アタッチメント)を歯の根やインプラントに埋め込んでいる場合があります。この磁石は、MRI検査の前に、必ず歯科医院で取り外す必要があります。
- 一部の古い金属の被せ物や矯正装置 現在ではほとんど使われませんが、ごく一部の古い金属製の被せ物や矯正装置に、磁石に反応する金属が使われている可能性はゼロではありません。
ご自身の口の中に、どのような材料が使われているか分からない場合は、MRI検査の前に、一度かかりつけの歯科医院に確認すると、より安心です。
5. MRI検査を受ける際に、あなたがすべき、たった一つのこと
将来、あなたが脳ドックや、何らかの病気の検査でMRIを受けることになった際、やるべきことは、非常にシンプルです。それは、
検査を受ける前に、問診票や、担当の医師・放射線技師に、「歯科インプラントが入っています」と、必ず申告すること。
たったこれだけです。 この一言を伝えていただければ、医療スタッフは、インプラントがあることを前提として、安全に、そして最適な画質で検査を行うための準備をしてくれます。むしろ、ご自身で「大丈夫だろう」と判断し、申告しないことの方が、万が一の際に問題となります。
6. まとめ:正しい知識で、未来の不安を解消しましょう
インプラントとMRIに関する、長年の誤解は解けましたでしょうか。
- インプラントの主成分「チタン」は磁石にくっつかないため、MRI検査を受けても、動いたり、熱くなったりする危険性はまずない。
- 唯一の注意点は、金属による画像の乱れ(アーチファクト)だが、これは医療スタッフが対応可能。
- 最も大切なのは、検査の際に「インプラントが入っています」と正直に申告すること。
インプラントは、将来の生活の質を豊かにするための、素晴らしい治療です。そして、その治療が、将来の他の医療検査の妨げになるようなことは、ほとんどありません。正しい知識を持ち、いたずらに不安がることなく、安心して治療を選択してください。そして、もし分からないことがあれば、いつでも私たち専門家にご相談ください。